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子どもの弱視・斜視

帝京大学教授 丸尾 敏夫

幼少時の目の代表的疾患は斜視と弱視である。斜視は字の如く片方の眼球が外側に向いたり、内側に向いたりしているので、素人の親でもすぐ判る。なかには、写真を撮ったのを見て、「家の子供の目の位置がどうにもおかしい」「右の目が内側に向きすぎているようだ」などと言って、我々の外来に訪れる方もいる。
そのように、比較的斜視は発見され易い。発見され易いということは、また、対応がとり易いということにもなる。
問題は弱視で、それも遠視性不同視弱視である。不同視弱視というのは、片方がよく見えていて、片方が見えない目である。これが一番問題である。子供も片方がよく見えるので、生活に不自由を感じない。親もそれがために気がつかない、というのが一番困るケースなのである。
以上のようないろいろなことを考え、三歳児健康診断に視力検査が加わり、全国的に健診される制度が、平成二年秋から実施されるようになった。必ずこの三歳児健康診断(地区により、四歳児健康診断にしているところもある)を受けてもらいたい。
早期に発見され、適切な処置がなされれば必ず正常な視力となるからである。
日頃より我々日本眼科医会は、広く国民に正しい眼科医療の啓発、および教育活動を行うことに努めているが、その趣旨の一環として弱視、斜視について、専門的なことを判り易く、だれが読んでも理解できるようなコンテンツをと考えて、この企画を選んだ。
そのために弱視とは、斜視とは、どんなものか、不幸にしてそうであったらどのようにすればよいか、また、どんなことに注意すればよいか、小児眼科の専門医に判り易く解説してもらった。ご参考になれば幸甚である。

患者 生まれたばかりの赤ちゃんは、目が見えるのですか。
医師

赤ちゃんは生まれたばかりの時は、明るいか暗いか位しかわかりません。しかし、一ヶ月位でものの形が、二ヶ月位で色が分かるようになり、四ヶ月になると、動くものを追って目を動かせるようになります。

患者 おとなと同じように見えるのはいつ頃からですか?
医師 三歳になると半分以上の子どもが、1.0見えるようになり、六歳でおとなと同じ視力を大部分の子どもが持つようになります。
患者 子どもの目は、だんだん見えるようになるのですね。
医師 毎日目を使って絶えずものを見ていないと子どもの視力は発達しません。ですから発達の途中になにかの原因でものが見にくい時期があると、見にくい方の目は視力の発達が止まってしまいます。
患者 たとえばどんな場合ですか。
医師

乳幼児では片目を眼帯でなどでおおっておくと、その目はよく見えないので、視力の発達が妨げられてしまいます。このように視力が悪い状態で止まってしまうことを弱視といいます。

患者 目を使う訓練をしないとどうして弱視になるのですか。
医師

わたしたちは、目の網膜に像が映っただけではものを見ることができません。その像が視神経を通って大脳に伝えられてはじめて見えるのです。この道筋を視覚伝導路といいます。
ものをはっきり見ることができにくい状態にあると、視覚伝導路に適切な刺激が与えられないことになります。子どもの視力の発達にはこの刺激が必要で、それのない状態だと視力の発達が止まり、弱視になるのです。

患者 片目が弱視になっても、もう片方の目が良ければ問題はないように思うのですが。
医師 右目と左目で見た像を脳で一つにまとめることを両眼視といいます。両眼視は最も高度な目の働きで六歳頃までに完成します。ものの正しい立体感や遠近感は両眼視によって得られるので、片目だけでは正しい見方ができません。
患者 弱視は治らないのですか。
医師 弱視が良くなるかどうかは、視力の発達がどの程度、またどれ位の期間おさえられているかによります。程度が強いほど、期間が長いほど、弱視の回復は困難になります。
患者 弱視は早い時期に見つけることが大切なのですね。
医師 三歳位までに弱視を発見できると、視力はかなり回復します。また親御さんの注意で予防することができますから、お子さんの視力の発達に注意することが大切です。乳幼児の目に少しでも心配な点があったら、必ず眼科を受診してください。また、三歳児健診での視力検査は必ず受けるようにしましょう。
患者 どんな場合に弱視になるのですか。
医師

まず生まれつき斜視のある場合です。斜視になっている目が使われないため視力が発達せず、弱視になるのです。これを斜視弱視といいます。

患者 治療法について教えてください。
医師 斜視弱視の治療は、訓練と斜視手術を組み合わせて行います。訓練の方法は、良いほうの目をかくして弱視の目を使わせる遮閉法が基本です。
患者 治療はすぐ行わなければいけませんか。
医師 三歳までなら遮閉法だけで、多くのお子さんの視力が回復します。しかし、小学校に入学してからでは、どんな方法でもあまり期待はもてません。こうした治療は六歳までに行われないとほとんど効果はありませんから、お子さんに斜視があればなるべく早く検査を受け、治療しなければなりません。
患者 他にどんな原因で弱視になるのですか。
医師

遮閉法の図 遠視が原因でおこる遠視性弱視には、片目の弱視(不同視弱視)と、両目の弱視(屈折性弱視)がありますが、両方とも眼科医の指示に従ってよく度の合ったメガネをかけることで良くなります。
先天白内障、眼瞼下垂などによる廃用性弱視は、弱視をおこすもとになっている病気をなるべく早く手術することが、治療の基本です。

患者 弱視というと、目が非常に不自由な人のことをいうのだと思っていました。
医師

そうですね。弱視という言葉は二つの意味で使われるために誤解されやすいのですが、そのことをお話しましょう。

  • (A) 眼科で使われる弱視は病名で、今までお話したように、子どもの視力の発達が何かの原因で妨げられてしまうことです。
  • (B) 次は教育の場や、社会生活を送る場合に使われる弱視です。これは両目に病気があって視力が悪く、目を使って教育を受けたり、社会生活を送っていくことが非常に不自由な状態を指します。
患者 (B) の意味で使われる場合、どれ位の視力を弱視というのですか?
医師 メガネを使った、両目の矯正視力が0.04以上0.3未満を弱視といいます。
患者 それでは普通の人と同じように生活するのは大変なわけですね。
医師 しかし視力が0.04以上あれば、点字を使わなくても文字を大きくしたり照明を良くするなどの工夫で、目を使った教育(弱視教育)ができますし、職業訓練も可能ですから、そう悲観することはありません。
患者 医療の面では何か対策がありますか。
医師

弱視眼鏡など現在より少しでも見えるようにする方法があるかもしれないので、眼科医とよく相談することが大切です。

患者 斜視の子どもは多いのでしょうか。
医師 斜視は子どもの約二%にみられ、小児眼科の代表的な病気です。
患者 どうして斜視になるのですか。
医師 斜視の原因はいろいろあって眼球を動かす筋肉や神経の病気、遠視、両眼視の異常、視力不良があげられます。
患者 それぞれの原因について説明してください。
医師 まず眼球を動かす筋肉や神経に病気があると、眼球が動かなくなって目の位置がずれ、斜視になります。
患者 遠視だと斜視になるのですか。
医師

目は近いものを見る時、ピント合わせをします。この動きを調節といいますが、調節に伴って両目の眼球は内側に寄ってきます。遠視の場合は近くを見る時、調節の力がふつうより強く働くので目が内側に寄って内斜視になるのです。これを調節性内斜視といいます。

遠視と目の調節について

患者 両眼視の異常というのはどんなことですか。
医師 両眼視とは、両目を使ってものを一つに見る働きのことです。両眼視も先にお話した視力と同じように、赤ちゃんがものを見る自然の訓練によりできあがっていきます。両眼視は生後一年位でできあがり、六歳位で完成するといわれていますが、生まれつき両眼視ができなかったり、その発達が途中でうまくいかないと斜視になります。
患者 視力不良による斜視というのはどんなことですか。
医師 片目または両目が病気やケガのために視力が悪いと、両眼視ができず斜視になります。
患者 斜視の治療法を教えてください。
医師 斜視の中でも調節性内斜視はメガネで治りますが、それ以外の斜視はすべて手術で治療します。
患者 手術は大変ですか。
医師 斜視の手術自体は短時間で終わるのがふつうで、点眼麻酔だけで痛みもなくできます。しかし、小さい子どもは不安のためおとなしく手術が受けられませんから、多くの場合、全身麻酔で手術します。
患者 どんな手術をするのですか。
医師 斜視の手術にはおもに二つの方法があります。
一つは眼球についている目の筋肉を後ろにずらす後転法。もう一つは目の筋肉を縫いちぢめて、位置を眼球の前方にずらす前転法です。
患者 目を手術するのはなんだか怖いような気がします。
医師 どちらの目の、どの筋肉に、どの手術を行うか、よく検査して行えばだいじょうぶです。
患者 斜視の治療には訓練が必要だとききましたが。
医師

片目が斜視弱視の場合は、遮閉法などの弱視の訓練をして視力が良くなったところで手術しないと、また斜視になってしまいます。
また両眼視の働きが悪い場合には手術をしても斜視に戻ることがあり、その場合も両眼視の訓練をすることがあります。しかし訓練の必要な場合は、それほど多くありません。

患者 調節性内斜視の場合は、手術をしなくとも治るのですか。
医師 調節性内斜視は遠視が原因でおこりますから、遠視のメガネをかけると良くなります。ただし、一部分が調節性内斜視のお子さんの場合は、メガネをかけながら手術も行います。
患者 遠視のメガネはどこで作ればいいですか。
医師 必ず眼科を受診して作ってください。
遠視性弱視や調節性内斜視のメガネは、ふつうの視力検査や屈折検査では作れません。
子どもは目の調節力が強いので、遠視の場合、正しい度がわかりません。そのため一時的に調節を止める目薬をさして検査する必要があるのです。
患者 子どもが幼くてメガネをかけられない場合はどうするのですか。
医師 その場合は、メガネがかけられるようになるまで待ってかまいません。遠視性弱視や調節性内斜視のお子さんは、遠視のため視力があまり良くないので、ふつう三歳位になるといやがらずにメガネをかけるようになります。
患者 子どもの斜視は放っておいても治るという人がいるのですが。
医師 そんなことはありません。赤ちゃんは右目と左目の間が離れていて内側の白目が見えないことがあり、斜視と間違われたりします。これはみかけの斜視なので成長に伴って治りますが、本当の斜視は治療しなければ治りません。

斜視には、目が内側に寄っている内斜視、外を向いている外斜視、上を向いている上斜視、下を向いている下斜視があります。
また、常に斜視になっているのを恒常性斜視、ときどき斜視になるのを間歇性斜視といいます。

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絵 大内 秀

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