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アレルギー性結膜炎の治療と対策

東京女子医科大学眼科准教授 高村 悦子

早春のテレビ、ラジオはスギ花粉情報ではじまります。今や花粉症は、現代病といっても過言ではないでしょう。

花粉症は、花粉によって目と鼻にアレルギーをおこした状態です。目のアレルギーには、この花粉症のように、花粉の飛ぶ季節に限定してかゆみや充血がおこる季節性アレルギー性結膜炎や、1年中症状が続く通年性アレルギー性結膜炎、また、まぶたの裏の粘膜がでこぼこになったり黒目にも傷ができたりと、なかなか治りにくい春季カタル、アトピー性角結膜炎、巨大乳頭結膜炎といった、いろいろなタイプがあります。

最近では、アレルギー性結膜炎の治療法もさまざまな工夫がなされ、つらい時期を少しでも短くすることができるようになってきました。この一文では、アレルギー性結膜炎の原因、治療法、予防などについて、お話ししたいと思います。

アレルギーは、ギリシャ語で「変化した反応能力」を意味するそうです。
そもそも私たちの体は、病原体(細菌やウイルス)などの異物(抗原)に対し、抗体という抵抗力をつくりだし、抗原抗体反応によって病原体をやっつける力をもっています。これが免疫の「普通の反応」で、病原体から私たちの体を守ってくれています。

ところが、体内に侵入した異物に対し体が過敏に反応しすぎると、かえって私たちに不都合な結果をもたらすことがあります。これが「変化した反応能力」、つまりアレルギーです。

アレルギー反応の抗原になるものを、アレルゲンといいます。アレルギー性結膜炎を引きおこすアレルゲンで多いのは、空中を漂って目のなかに飛び込んでくるタイプの吸入性アレルゲンです。スギ、カモガヤ、ブタクサといった樹木や草花の花粉、ダニ、ハウスダスト(家のなかのほこりのことで、ダニやカビ、動物のフケや蚊などがまざったもの)が、代表的です。

花粉は季節限定のアレルゲンで、地域によって多少花粉の飛ぶ時期にちがいがあります。東京では、スギ(2~4月)、ヒノキ(5~6 月)、カモガヤやブタクサ(8~9月)などが代表です。北海道にスギはありませんが、そのかわりシラカバが春の花粉症のアレルゲンになります。

アレルギー性結膜炎は、アレルゲンとIgE抗体という免疫グロブリンが抗原抗体反応をおこし、15分位で充血やかゆみなどの反応がでてくる、即時型(I型)アレルギーでおこります。

まず、スギ花粉などのアレルゲンが目の表面に飛び込んでくると、リンパ球からスギ花粉に反応するIgE抗体がつくられ、マスト細胞(肥満細胞)と結合します。そこへさらにスギ花粉が入ってくると、マスト細胞に結合したIgEと反応をおこして、この情報がマスト細胞のなかに伝わります。するとマスト細胞のなかのヒスタミンなどのケミカルメディエーターが粘膜に放出され、神経や血管に作用し、かゆみや充血をおこします。このとき結膜や目やにのなかに、好酸球という炎症細胞がでてきます。

アレルギー性結膜炎は、充血、目やに、なみだ目といった結膜炎の症状に加え、目がかゆくなるのが特徴です。思わず目をゴシゴシこすってしまうほどのかゆみです。

このような症状は、アレルギー反応の結果でてきたヒスタミンが、神経や血管を刺激するためにおこります。まぶたの裏には粘膜のブツブツ(乳頭)が増え、白目はむくんで、ときにはゼリーをのせたようにブヨブヨと、まぶたからはみだしてしまうこともあります。 花粉症では、くしゃみ、鼻水、鼻づまりといった症状を伴うこともあります。

アレルギー性結膜炎は、目のかゆみなどの症状があり、実際にアレルギー反応が結膜でおきていることを確認できれば、診断がつきます。そのためには目やにのなかに、好酸球というI型アレルギーのときにでてくる炎症細胞を見つける方法が確実です。また、血液検査や皮膚テストで、アレルゲンを調べることも大切です。

なにが原因でアレルギーがおきているかがわかれば、アレルゲンを避けて通る対策が立てられます。

スギ花粉症などの季節型アレルギー性結膜炎では、まず抗アレルギー点眼薬を使います。抗アレルギー点眼薬は、I型アレルギー反応をおさえる点眼薬のことです。マスト細胞のなかにあるケミカルメディエーターが、結膜にばらまかれるのを防ぐケミカルメディエーター遊離抑制薬や、ヒスタミンが結膜の神経や血管に結合するのをおさえ、目のかゆみや充血をおこさないようにする、ヒスタミンH1受容体拮抗薬があります。

抗アレルギー点眼薬はほとんど副作用がなく、安全に使うことのできる薬ですが、花粉の飛ぶ量が多いときや目の具合によっては、症状が治まらないこともあります。この場合はステロイド点眼薬を追加します。とてもよく効きますが、副作用として眼圧が高くなる場合があるので、2週間以上点眼薬を継続する場合は定期的に通院し、必ず眼圧をチェックしてもらいましょう。万が一、眼圧が上がっても、点眼の回数を減らしたり中止すれば、眼圧はもとに戻ります。

花粉症では、花粉の飛びはじめる前から抗アレルギー点眼薬を点眼すると、花粉がたくさん飛ぶ時期の症状が軽くなったり、症状がでる期間が短縮されたりします。

スギ花粉症であれば、毎年2月10日前後が花粉の飛びはじめる時期なので、抗アレルギー点眼薬を1月の下旬からつけておけば安心です。毎年花粉症に悩まされている方は、1 月中には眼科を受診し、抗アレルギー点眼薬を処方してもらいましょう。

市販薬のなかで唯一のおすすめは、防腐剤の入っていない人工涙液です。これは、目の表面に飛び込んだアレルゲンを洗い流すのに、とても便利です。防腐剤の入っていないものをおすすめするのは、1日何回でも点眼できるように、との考えからです。

5cc以上の点眼薬は使っているうちに、容器のなかが雑菌で汚染されてくる心配があるので、普通は低濃度の防腐剤が入っています。ところが、洗眼などの目的で何度もつけたい場合には、この防腐剤がかえって目の表面の細胞をいためてしまうことがあるのです。

防腐剤の入っていない人工涙液は、使い捨てタイプのものが数種類あります。1本でも5、6滴はでるので、目を洗い流すように使いきってしまいましょう。

春季カタルは子どもに多い重症なアレルギー性結膜炎で、特に小学生の男の子に多く見られ、激しい目のかゆみや白い糸状の目やにがたくさんでます。

上まぶたの裏側の結膜には、ちょうど石垣のように見える粘膜の隆起(石垣状乳頭増殖)ができたり、黒目(角膜)と白目(球結膜)の境目がぐるりとはれてきたりします。角膜にも、びらんや潰瘍ができることがあり、かゆみに加え目がとても痛くなります。そのため目が開けられず、学校で授業を受けるのも難しくなることもあります。

潰瘍が治りかけると、その部分に白いかさぶた状のもの(角膜プラーク)ができ、それがちょうど瞳の前にあると光の通り道の邪魔をして、視力が落ちてしまいます。

症状は1年中でますが、春など季節の変わり目に悪化することがあるので、この名前がついたのだと思います。思春期ころに自然に治る場合もあるのですが、まぶたのアトピー性皮膚炎が治りにくいと、大人になっても症状が続くことがあります。

とてもかゆいとき、目やにが増えたとき、また黒目に傷ができて痛くなったときには、抗アレルギー点眼薬に、炎症をおさえる作用の強いステロイド点眼薬を追加します。またステロイドの結膜下注射や、内服薬などを使う場合もあります。

これらの薬を組み合わせても症状が改善しない場合は、石垣状乳頭を切り取る手術をすることがあります。

現在、いくつかの免疫調整薬が点眼薬として開発されつつあります。今までステロイド点眼薬だけでは効果が不十分だった重症の患者さんも、免疫調整薬を一緒に使うことで症状が早く改善します。効果は期待できるのですが、残念ながらまだ処方できる点眼薬はありません。

※現在、春季カタルに効果のある免疫調整点眼剤ができています。(2014年8月追記)

12-1.スギ花粉対策は、まずゴーグルとマスクを

花粉症の季節には、外出時にゴーグルやマスクをつけることをおすすめします。せめてメガネをかけるだけでも、目の表面に飛び込んでくる花粉を減らすことができます。

表面のけば立った衣類は花粉をからませるので、この時期には、なるべく外側がツルツルしたものを着て外出しましょう。

帰宅時には、家のなかに花粉を持ち込まないために、衣服や髪をよく払ってから部屋に入り、洗顔、うがい、鼻をかみましょう。ついでに人工涙液での洗眼を忘れずに。

花粉情報をきき、飛散の多いときの外出は控えたほうがよいでしょう。

12-2.ハウスダストの予防は掃除から

ハウスダストを完全に部屋からなくすのは難しいのですが、掃除を欠かさないこと、カーテン、絨毯、ソファー、ぬいぐるみなど、ほこりがつきそうな物や家具を、身のまわりに置かない心がけは大切です。

室内の掃除は排気循環式の掃除機を用い、1m2あたり20秒の時間をかけ、週に2回は掃除すること。部屋の湿度を50%、室温を20~25度に保つこと。べッドのマット、ふとん、枕にダニを通さないカバーをかけるなどの工夫も役に立ちます。

12-3.プールに入ってもいいですか

アレルギー性結膜炎があっても、目が開けられれば、プールに入ることは可能です。目が赤くても、お友達にうつるわけではありません。ただし、プールの消毒液は大変刺激が強いので、ゴーグルをつけて入ることをおすすめします。

ゴーグルをつけても途中で目に水が入ることはあるので、プールからあがったら顔を洗って、目は防腐剤の入っていない人工涙液で洗い流しましょう。

水道水で目を洗ってもよいのですが、特に重症な場合は、水道水に入っているカルキも、目の表面の粘膜には多少の悪影響があるからです。

12-4.コンタクトレンズの上から目薬をつけてもいいの

かゆみや目やにがひどいときには、コンタクトレンズは使えません。まぶたの裏の粘膜とコンタクトレンズがこすれて、炎症がひどくなるからです。かゆみが治まってくれば、レンズを入れる前とはずした後に、抗アレルギー点眼薬を使います。

コンタクトレンズを使っているときは、レンズの上から防腐剤無添加の人工涙液をなるべく多めに点眼し、汚れが残らないようにしましょう。

日ごろコンタクトレンズを使っている人も、アレルギー性結膜炎がひどい時期には、思い切ってメガネにしましょう。そのほうが点眼薬もつけやすいし、メガネをかけるだけで、飛び込んでくるアレルゲンの量も減るのですから。

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絵 大内 秀

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