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屈折異常と眼精疲労

福島県立医科大学眼科 講師 梶田 雅義

長い距離を歩くと足が疲れます。歩き過ぎると、体にも疲れを感じます。走ったときには、歩いたときよりも疲れを感じますし、病気になって体の調子が悪いときには、なおひどい疲れが生じます。
同じように、目を使うと目が疲れます。目を使いすぎると、全身にも疲れを感じます。これが眼精疲労です。目が正しく使われていないと、目の疲れは起こりやすくなりますし、目や全身に病気があるときには、なお疲れやすくなります。
眼精疲労は予防が大切です。目を正しく使えば、目の疲れを防ぐことができます。眼精疲労の多くは、自らが気をつけることによって予防できます。
この一文が眼精疲労への理解を深め、快適な視生活への一助になれば幸いです。

目はカメラと同じような構造をしています。外から入った光は角膜(かくまく)瞳孔(どうこう)水晶体(すいしょうたい)、および硝子体(しょうしたい)を通り、フィルムの働きをする網膜(もうまく)に到達します。光は網膜で電気の信号に変えられ、視神経(ししんけい)を通って脳の視覚中枢(しかくちゅうすう)に伝えられます。そこで、初めて私たちがものを見ることができるのです。

カメラのピント合わせに相当するのが水晶体です。この水晶体は毛様体筋(もうようたいきん)の働きによって、その形を変え、遠くや近くの物にピントを合わせています。

カメラでいうと水晶体はレンズ、そして網膜はフィルムの役割を果たしています。

目のピント合わせは毛様体筋が収縮することによって起こります。毛様体筋の力を抜いてピント合わせのための力を全く使っていないときには、目は最も遠くにピントが合った状態になっています。
毛様体筋が収縮することによって水晶体の周囲に付着しているチン帯がゆるみ、水晶体は自らの弾力性で、膨らみが大きくなり、近くにピントが合うのです。あまり自覚はしていませんが、近くにピントを合わせるときには、毛様体筋を収縮させる努力をしているのです。

近くを見るときは、毛様体が緊張している状態です。

1つの目が失明したときの予備のために2つの目があるのではありません。2つの目があることによって、容易に遠近感や立体感を得ることができます。また片目で見るよりも両目で見たときの方が良い視力が得られます。

遠くを見ているときよりも近くを見るときには両目を内側に寄せなければなりません。したがって、近くにピントを合わせるためには、毛様体筋を収縮させるための努力と同時に、眼球を内側に寄せるための努力が必要です。これらの努力が高じると、目に疲れが生じます。

「近視ってどんな目?」ときくと、たいていは「遠くが見えない目」と返ってきます。正しくは「近視は近くが見える目」なのです。
近視はメガネなどの助けをかりなくても、近くにはピントが合います。しかし、裸眼では、どんなに努力をしても、遠くにはピントを合わせることができません。したがって、必要に応じてメガネなどの装用が必要です。メガネを用いないで本を読むことができれば、本を読むときに、ピント合わせのための努力はほとんど必要ありません。すなわち、近視は近くを見るのには最適な目なのです。

近視の多くはメガネやコンタクトレンズを作成するときに、遠くがよく見えるように作っています。
そのようなメガネやコンタクトレンズを用いて、読書をしたり事務作業をしている人の多くは、強い眼精疲労を生じています。25~35歳頃から症状が出はじめ、その後徐々に症状が強くなってきます。しかし、近くがぼけて見えるとか、近くが見にくいとかは感じませんので、近くを見ているときに強いピント合わせのための努力が必要になっていることに気付いていません。

裸眼で読書ができる近視は、裸眼で読書を行ない、遠くを見るときだけメガネを装用するようにしましょう。またメガネを更新する以前に使用していた少し弱い度数のメガネを持っている人は、読書のときにはそのメガネを用いてみましょう。
そうすることによって、読書や事務作業のときのピント合わせに要する努力を少なくさせることができ、目の疲労を予防することができます。遠くがすっきり見えないと満足できない人は、累進屈折力レンズを装用すると良いでしょう。

「遠視ってどんな目?」ときくと、「遠くが見える目」と返ってきます。しかし、正しくは、「遠視はピント合わせの努力をしなければ、遠くにも近くにもピントが合わない目」なのです。
遠視が良く見える目と誤解されているのは、ピント合わせを行っているためなのです。遠視は遠くを見ているときにもピント合わせの努力を続けていますので、非常に疲れやすい目なのです。子供のときには目が疲れたと自覚する前に、近くを見ることに飽きてしまいますので、遠視の子供は読書好きにはなれません。

学校や職場での検診では、良い視力値が得られますので、目には問題がないと思っている人が多いようです。しかし遠くばかり見ている職業に就いている人は良いのですが、学生や事務作業者では、常にピント合わせのための強い努力を持続しなければならないので、眼精疲労が生じます。

肩こりがひどい場合は、遠視の可能性があります。眼科で診てもらいましょう。

目の疲れと同時に、目の奥の痛みや肩こりを経験している人が多くいます。しかし日常では良好な視力が得られているために、ほとんどの人は目の奥の痛みや肩こりの原因が目にあるとは気付いていません。

子供の頃には2.0あるいは1.5の視力があり、目には自信があると自慢している人で、目の疲れや肩こりを自覚している人の多くは遠視です。
裸眼の視力が良くても、遠視を矯正するメガネやコンタクトレンズが必要です。この場合のメガネやコンタクトレンズはよく見えるようにするためではなく、目を疲れさせないために使用する必要があるのです。

夕方以降に本や新聞の字が見にくくて、読むのがおっくうになったら要注意です。急いで老眼鏡を準備するのではなく、適切な遠視矯正用のメガネを作成しましょう。この場合は、弱い加入度数の累進屈折力レンズをおすすめします。

縦方向と横方向でピントの合う距離が異なる目を「乱視」といいます。まぶたを細めないで、遠くのビルの窓枠を見たときに、横枠よりも縦枠がよりはっきり見える目は乱視です。また、45歳以上の人では、新聞などの明朝体で印刷された文字が、正しい方向から見たときと、90度回転させて真横から見たときで鮮明さに差があれば乱視です。
ほとんどすべての人が乱視を持っています。弱い乱視があっても、全く問題にはなりません。強い乱視があると、視力低下や眼精疲労の原因になります。

軽度の乱視は全く矯正する必要はありません。中等度以上の乱視がある場合に、乱視をどの程度矯正するかが問題になります。視力測定を行うときには、乱視を全部矯正した方がよく見えるのですが、そのようなメガネを装用しても、日常生活では快適ではありません。見え方の感じ方は個人差が大きく、その人その人で快適に感じる乱視の矯正量は異なります。
乱視の矯正が多すぎたり、少なすぎたりすると、イライラしたり集中力がなくなったりします。メガネ嫌いになっている人の多くは、乱視矯正に問題があります。

幼児期に存在する強い乱視は完全に矯正し、学童期以降に初めてメガネを装用する場合には、日常視の妨げにならない程度の乱視は残して矯正するのが、乱視の矯正の原則です。初めて使用したときに、ひどく歪みを感じるようでは適切なメガネとはいえません。
最近普及しているコンピュータ内蔵の屈折検査装置では、ほとんどすべての人に乱視が検出されます。その乱視をすべてメガネで矯正された場合には、快適なメガネにはならず、眼精疲労の原因になります。今まで乱視は無いと思っていた人が、突如、乱視があると言われた場合には要注意です。

外斜視は、俗に「ロンパリ」と言われています。片方の目が「ロンドン」を見ているときに、もう一方の目が「パリ」を見ていることから、そのように言われています。日本からは「ロンドン」を見るのも、「パリ」を見るのもほぼ同じ方向ですが、ドイツの「ボン」あたりから見れば、理解できます。

通常は、両眼とも真っ直ぐに目標物に向かっているのですが、気をゆるめると片方の目がそれてしまう人がいます。このような眼位異常が、ときに眼精疲労の原因になることがあります。メガネにプリズムレンズを用いることによって、疲労が治まることも少なくありません。て広い範囲の網膜を凝固します。

眼精疲労の起こり方は下のように説明されています。健康な体でも目を使い過ぎれば、「眼の使用」が大きくなります。緑内障、糖尿病や神経疾患など全身の病気になると「耐える力」が小さくなります。メガネを使用しない遠視や、合わないメガネの使用は「眼の能力」を低下させます。眼の能力、眼の使用、および耐える力のバランスを常に保つように心がけることが、大切なのです。また、眼精疲労を生じたら、これら3つのバランスを崩している原因を見つけることが、治療の第一歩なのです。

三角形の3つの頂点に「眼の能力」、「眼の使用」および「耐える力」がぶらさがっており、三角形の真ん中には一本の棒が垂直に貼り付けられています。その棒の回りには眼精疲労環が配置されており、これらがバランスを崩したときに、棒は眼精疲労環に触れて、眼精疲労を引き起こすと説明されています。

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絵 大内 秀

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