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白内障と手術

三宅 謙作(眼科三宅病院院長)

白内障(しろそこひ)は、壮年期から老年期の人々に高頻度にみられる代表的な病気の一つです。

進行すると、手術による治療しかありませんが、幸いなことに、1990年代初頭から導入された眼内レンズにより、術後に良質の視力が回復できるようになりました。

老年期といっても、平均寿命も延長し、70代までは現役として活躍する人々の多い現代社会で、白内障手術の進歩は大変な福音です。

このホームページは、白内障になった人達、およびその手術を受ける人達のために書かれています。最近よく耳にする、手術を受ける前のインフォームドコンセント(説明と同意)のための予備情報になれば幸いです。

目はよく五感の長などと言われ、重要な感覚器官で、人はその情報の90%以上を目から得ていると言われます。

仕事をするのも、テレビを見るのも、新聞や本を読むのも、美しい景色を見るのも、全て目の働きのおかげです。

人はどのような仕組みでものを見ているのでしょうか。ものを見る仕組みを考えながら、白内障(はくないしょう)という病気との関わりについて考えてみましょう。

目の働きや構造はよくカメラにたとえられます(図1)。

黒目(角膜(かくまく))のすぐ後ろにすけて見えるいわゆる茶目は虹彩(こうさい)といい、これは目の中に入ってくる光の量を調節する働きがあり、カメラでいったら(しぼ)りにあたります。この虹彩の後ろに水晶体(すいしょうたい)という部分があります。水晶体はカメラのレンズと同じで、私達が見ようとするものを正しく、後で述べる網膜(もうまく)焦点(しょうてん)を結ばせる働きがあります。

最後に目に入った像は網膜という、カメラでいえばフイルムにあたる部分に投影され、これが視神経を通して脳に伝えられ、私達は、初めてものを見ることができるのです。

図1 目の構造とカメラ
目の構造とカメラ

3.目の働き」に述べたように、カメラのレンズにあたるところを水晶体といいますが、この部分がいろいろな理由で白く濁ってくる状態を白内障と呼びます(図2)。

白内障の原因の最も多いものは、加齢現象によるもので、一般に老人性白内障と呼ばれるものです。早い人では40歳台からはじまり、80歳台ではくわしく検査すれば大部分の人が白内障になっています。その他に外傷によるもの、他の目の病気に続いて起こるもの、薬物中毒によるもの、先天性のものなどがあります。

水晶体が濁り始めると、ものがかすんだり、二重に見えたり、まぶしく見えたりし、進行すれば必ず視力が低下します。

図2 白内障の目
白内障の目

白内障になると、初期のうちには薬によってその進行を遅らせることができる場合がありますが、完全に治療することはできません。進行した白内障は濁った水晶体を手術によって取り除く方法が一般的に行われています。

手術は、現在、球後麻酔(きゅうごますい)点眼麻酔(てんがんますい)という方法で行われ、痛みはありません。手術中には医師の話も聞こえますし、会話もできます。手術時間は白内障の程度によって様々ですが、通常30分程度です。

最近の手術法は超音波乳化吸引法(ちょうおんぱにゅうかきゅういんほう)という方法が一般的で、3mmくらいの傷から超音波の力で水晶体の濁った中身だけを吸い出し、残った薄い膜(水晶体嚢(すいしょうたいのう))の中に水晶体の屈折力を補正するための眼内(がんない)レンズが挿入されます(図3・4)。

図3 水晶体嚢の中の濁った水晶体を超音波で吸い出します。

図4 取り除いた水晶体のかわりに眼内レンズを挿入します。

水晶体は通常20Dぐらいの強さのレンズですので、この部分が濁って取り出してしまうと、それに代わる人工的に作ったレンズ(眼内レンズ)を挿入しなければなりません。

これをしないと、手術後強い遠視になってしまい、網膜にピントが合わなくなるからです。

眼内レンズは、光学部と支持部から成り(図5)、残された薄い膜(水晶体嚢)の中に、このレンズが固定されます。大きさは全体が12~13mmで、非常に小さな形をしており、コンタクトレンズをさらに小型にしたような形をしています。

最近の眼内レンズにはいろいろな種類があります。

紫外線吸収型のもの、メガネでいえばサングラスのように少し色がついたもの、挿入する傷口を小さくするために折り畳んで入れるやわらかいもの、遠方も近方も見えるような仕組みになっている多焦点型のものなどが開発されています。これらは患者さんの年齢や目の状態、それに希望に応じて使い分けられます。

図5
眼内レンズ

主治医が白内障の手術を必要とすると考えた場合には、患者さんは手術前に、目の働きや合併症がないかなどを調べるための必要な検査をしなければなりません。眼底や視神経に病気が隠されていると、手術がうまくいっても視力が出ないことがあります。

さらに大事なことは、個々の患者さんごとに異なる眼内レンズの屈折力を、手術前に決めておかなくてはなりません。これが適切に行われないと手術後に強い近視なったり、あるいは遠視になったりします。しかしこの眼内レンズパワーの測定や予測は、手術前から強い遠視や強い近視のある患者さんでは、なかなか難しい場合があることも事実です。

手術時間によっては朝食を抜いた方がいい場合があります。病院に着いたら目薬や飲み薬を渡されます。その一部は患者さんの気分を楽にする目的のものや、あるいは細菌を殺す抗生物質であったりします。さらに、手術をするために瞳孔(どうこう)を開く目薬が一般に使用されます。手術は通常局所麻酔(きょくしょますい)で行われ、痛くはありません。

手術は手術用顕微鏡(けんびきょう)で行われるために、手術中に顕微鏡の光の動きなど自覚することはありますが、それ以上の細かいものは見えません。目は開瞼器(かいけんき)という(まぶた)を自動的に開く器具で開かれていますので、患者さんは目を開けようとしたり、つむろうとしたりする必要はありません。

手術の前には、目のまわりの皮膚は完全に消毒され、滅菌した布などで目はカバーされます。手術が終わると医師は通常数日間、目に眼帯をするようすすめます。手術後そのまま病室へ歩いていくことができます。条件が整えば、日帰り手術も行われており、手術後しばらく休養して家の人などと一緒に家路につくことも可能です。

術後2、3ヵ月は医師が処方した点眼をしなければなりません。

また、手術後しばらくは目をこすらないよう注意する必要があります。通常の日常生活はすぐ再開できます。

しかし、過激なスポーツなどは医師が許可するまでは控えることになります。また、運転とか特殊な目を使う作業については医師と相談して行います。眼帯や、サングラスなどの使用についても主治医の指示に従いましょう。

最近の白内障手術は、大多数の患者さんは視力を回復することができる安全な手術になっています。しかし2、3の合併症(がっぺいしょう)があります。

最も多いのは、後発白内障といわれる、薄く残した膜の水晶体嚢が、手術後1、2年で濁ってくる合併症です(図6)。この合併症は最近では、ヤグレーザーというレーザー光線で、外来で簡単に切開でき、再びよい視力を取り戻すことができます(図7)。

図6 水晶体嚢が濁った後発白内障の目

図7 濁った水晶体嚢にレーザー光線で穴をあけて再びよい視力を取り戻します。

眼内レンズを入れた後でよく起こるもう一つの現象には、患者さんがものが青っぽく見える、あるいは赤っぽく見えるという訴えがあります。これは専門用語で青視症(せいししょう)、あるいは紅視症(こうししょう)という一種の合併症です。正常な人の水晶体は、通常年齢とともに黄色みを帯びてきます。すなわち正常な人は、年齢とともに色の濃くなる黄色いサングラスをかけているということになります。このような時期に白内障手術で黄色に着色した水晶体を除去し、透明な眼内レンズを挿入すると、黄色いサングラスがはずれて、青っぽく見えるようになります。この合併症は手術後1、2週によく起こりますが、害はなく、多くは時間と共に自覚しなくなります。

手術後、非常に少数でありますが、重い合併症が起こることがあります。

手術中、あるいは術後に目の中に細菌が入り、感染症を起こす術後眼内炎(じゅつごがんないえん)はそのうちでも最も重い合併症で、時に失明に陥ることがあります。

幸いなことに、最近の手術ではその頻度は0.1%未満、1000人に1人未満です。

細菌には最近、新聞、テレビで有名なMRSAと呼ばれるもののように通常の抗生物質に抵抗するものが現れています。新しい抗生物質が出ると新しい抵抗性の細菌(耐性菌)が出るというイタチごっこの状態で、この合併症を完全にゼロにするのが難しい事情がここにあります。

手術後ものが写る網膜が剥離(はくり)する網膜剥離が起こることもあります。この合併症は早期に見つければ、手術で治すことができます。

白内障は高齢化の進む現在、目の病気の中で頻度の高いものです。白内障の手術は近年大変に進歩し、安全な手術となり、視力回復も早くなりました。眼内レンズにより患者さんは質のよい視力を回復し、社会復帰を果たされています。

このホームページが手術を受ける患者さんにとっても、よい情報源になることを願っています。

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