40歳からはじめたい アイフレイル(目の老化)対策――健康寿命をのばすために
杏林大学医学部 眼科学教授 山田昌和
人は外界からの情報の80%以上を目から取り入れています。快適な暮らし、安全な生活のためには健康な目、良い見え方が欠かせません。しかし、40歳を過ぎると、体力が衰えるのと同じように目もだんだんと衰えてきます。こうした加齢に伴う目の機能低下を示す状態を「アイフレイル」と呼びます。多くの人が感じるちょっとした見にくさ、疲労感の多くは老視など年齢によるものですが、なかには重大な病気の初期症状のことがあります。
目の健康は全身の健康寿命を左右します。人生100年時代、人生を楽しみ、快適な日常生活を過ごす上でも目は大切です。目の問題に気づくきっかけとするためのキーワード「アイフレイル」について解説していきます。
杏林大学医学部 眼科学教授 山田昌和
日本人の平均寿命は男女ともに80歳を超えるようになりましたが、その一方で健康寿命との隔たりが問題になっています。健康寿命とは、健康の問題で日常生活が制限されることなく生活できる期間のことで、健康寿命を保つのに重要なのがフレイル対策です。
フレイルは虚弱、衰えという意味で「健康」と「要介護」の中間の状態を示します。健康だった人も年をとるにつれて全身の臓器が衰え、筋力も弱くなってきます。このような状態が進行すると、自立した生活が難しくなり、寝たきりなど要介護の状態に陥ってしまうこともあります。
フレイルは、ちょっとしたきっかけで心身のバランスを崩しやすく、自立機能の障害や日常生活の制限に至りやすい状態ですが、この段階で健康管理や生活習慣の見直しをすればフレイルを予防し、健康で快適な生活を守ることができます。
【図1】フレイルと健康寿命 ( ©日本眼科啓発会議 )
目もからだの一部、少しずつですが加齢による衰えが生じてきます。最初のうちは自覚しないことも多いかも知れませんが、知らず知らずのうちに読書の機会が減っていたり、夜間の車の運転を避けたり…、だんだんと気になることが増えてきます。こうした状態をアイフレイルあるいはプレアイフレイルと呼びます。その多くは老視など年齢的な変化によるものですが、なかには重大な病気が隠れていることがあります。
アイフレイル活動の大きな目標の1つは、アイフレイルをきっかけとして目の病気を早期に発見し、適切な対策を取ることで、失明や重い視機能障害に陥る人を減らすことです。
アイフレイル活動のもう1つの目標は、目の健康への関心を持ち続けてもらうこと、自分の目の状態を意識して顧みる習慣をつけてもらうことです。
加齢に伴う見えにくさや目の不快感は、メガネや目薬だけでなく、まわりの環境や目の使い方への配慮など様々な対策で、ずっと楽になることがあります。年のせいとあきらめないでください。
【図2】アイフレイルは加齢による目の衰え
( © 日本眼科啓発会議)
40歳以上の成人1 万人以上を対象とした調査によると、「健康面で不自由を感じていること」に関して、目(視覚)に関することを挙げる人が42.5%と、歯や足腰などと比べて最も多い結果でした。しかし、「検査やケアを受けていること」では22.8%であり、およそ半分の人は目の不調や不安を放置していることになります。
さらに「目で気になる症状はありませんか」と詳しく訊ねてみると、81.7%とほとんどの成人が何らかの症状があると回答していました。
主なものは、小さな字が読みにくい、目が疲れやすい、目がかすむ、など老視(老眼)を思わせる症状でしたが、なかには、視界の一部が見えにくい、モノがゆがんで見える、など重大な目の病気が疑われる症状もありました。皆さんも思い当たる目の症状はありませんか。
目に問題がないか、ご自分で簡単にできるチェックリストがあります。10項目の簡単なテストですので、ぜひ試してみてください。2 項目以上あてはまる場合にはアイフレイルの疑いがあります。
10項目のうち、最初の5 つは乱視などの屈折異常や老視でよくみられる項目で、6 番は白内障 、7 番はドライアイや流涙、8 番は眼底疾患、9 と10 番は緑内障を意識した項目です。
実際にはこの症状ならこの病気というわけではなく、症状は人によって様々であり、あくまでも参考程度です。しかしながら、当てはまる項目が多い場合は要注意で、2 項目以上該当する場合には、緑内障や白内障など重大な目の病気のリスクが2-3 倍高いことがわかっています。
【図 4】チェックリスト ( ©日本眼科啓発会議)
アイフレイルチェックリスト Ver.1.1(2023年11月改定)
※いくつかの質問について尋ね方の表現を改変し、信頼性、妥当性のさらなる向上を図りました。
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2つ以上当てはまった人はアイフレイルかも?
アイフレイルは、単に目の問題ではなく、 フレイルの持つ様々な側面、身体や心の健康、社会との関わりにも悪影響を及ぼしかねません。
視力の低下は、身体活動の減少から筋肉量や体力の低下につながり、転倒や骨折のリスクを高めます。また、認知機能の低下を招いたり、うつ状態に陥りやすくなったりと、精神・心理面への悪影響も知られています。更に視力が悪いと社会参加や外出の機会が減少し、社会とのつながりも希薄となってしまう恐れもあります。
【図5】アイフレイルの多面性
( © 日本眼科啓発会議)
アイフレイルによる視機能の低下は直接的に健康寿命を縮めるだけでなく、身体のフレイル、心のフレイル、社会的フレイルにも影響し、これらが合わさって自立機能の低下や日常生活制限を生じ、最終的には健康寿命の短縮につながっていくと考えられます。
【図 6】アイフレイルの影響
( ©日本眼科啓発会議 )
一般的にフレイルは高齢者の問題と考えられていますが、目のフレイルはもっと若い年代、40歳から気にする必要があります。
というのも、成人の視覚障害の原因となる主な疾患は緑内障、糖尿病網膜症、変性近視し 、黄斑変性、白内障などで、この5 つで全体の3/4を占めています。これらに共通するのは、病気になってすぐに見えにくくなるわけではなく、発症してから10 年あるいは20 年の期間を経て徐々に進行していくことです。【図7】
【図7】視覚障害の原因となる主な疾患
逆の見方をすると、見えにくくなって困るのは高齢になってからでも、病気そのものは40-50歳くらいから始まっているのです。
視覚障害を持つ人の割合は年齢とともに上昇し、70歳以上では男性の約5%、女性の3.5%が見え方に問題を抱えるようになります。初期の段階で病気を発見して対処できれば、将来的に目の問題で困ることを防止できます。40 歳からアイフレイルチェックが必要というのはこのためです。
( © 日本眼科啓発会議)
アイフレイルの主な目標は、目の重要性を認識して目の健康への関心を持ち続けてもらうこと、そして目の健康診断(検診)による早期発見、早期治療です。
セルフチェックでちょっとした目の不調を自覚することは目の検査を受けるきっかけになりますが、自覚症状のない人には効果がありません。緑内障や糖尿病網膜症、黄斑変性などでは初期には自覚症状が現れにくく、緑内障の約6割は診断時に全く自覚症状がなかったともいいます。
セルフチェックを補う役割を持つのが眼科検診です。現状では公的な眼科検診の機会は限られていますが、特定健診などで目の検診の1つである眼底検査を受けられる自治体が、少しずつ増えてきています。ご自分が住まわれている自治体にぜひお問い合わせ下さい。
アイフレイルチェックと目の検診は目の健康に注意を向ける良い機会です。健康な目とものを見る力を保つこは、快適な日常生活を送り、読書、運転、スポーツ、趣味など人生の楽しみを享受するための重要な要素となります。
40歳からのアイフレイル対策は、将来のご自分の日常生活や自立機能を守るため、健やかな老後を過ごすための投資です。目で「気になる」があれば、まずは眼科でご相談ください。
絵 清水理江
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