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白内障手術を受ける方へ 知っておきたい白内障術後のケア

北里大学医学部眼科教授 清水 公也 北里大学医学部眼科講師 天野 理恵

白内障手術は、昔は「見えるようになれば良い」とされる開眼手術でしたが、今は「いかに見えるようにしたいか」を選択する手術に変化しています。手術は現在、局所麻酔によりほとんど痛みを感じることはなく、術式や器具などの進化によって以前より格段に目への負担が少なくなり、安全性も高まっています。眼内レンズは交換やメンテナンスの必要はなく、その寿命は人間よりもはるかに長いと考えても問題ないと言われています。

しかし、手術である以上は、安全性は100%とは言い切れません。術後のケアが大切です。本書が、これから手術を受ける方の疑問や不安を解消する一助となり、患者さんと医療スタッフをつなぐ架け橋となれば幸いです。

白内障は、目の中のレンズの役割をしている水晶体が白く濁ってくる病気です。白内障の原因で主なものは加齢で、水晶体の成分であるたんぱく質が活性酸素によって変化して、白く濁ります。

白内障の濁りは、薬で取ることはできません。そのため、最終的には白内障手術を受けることになります。濁った水晶体を取り去り、その代わりに人工の水晶体(眼内レンズ)を入れます。白内障手術は、年間約120万件行われています。誰もが経験する手術といっても過言ではありません。

目の構造

目は角膜、水晶体、硝子体、網膜、視神経乳頭、視神経からなります

日帰りでも入院でも、白内障の手術そのものには、違いがありません。大切なこととして、安全性を最大限に配慮した上で、ご自身の心や体に一番負担がかからない方法を選択するのが良いでしょう。

●入院手術がおすすめの方

一人住まいの人やご高齢の方、あるいは白内障以外の目の病気や糖尿病など、管理が必要な病気のある人も、入院をして手術を受けた方が安心です

●日帰り手術でも可能な方

比較的若く、体力に自信があり、他に病気のない人は、日帰り手術でも可能です。
入院することで、逆に認知症が進んでしまったり、慣れない入院環境で体調を崩してしまったりする心配のある人は、日帰りで手術を受けた方が心身に負担がかからない場合もあります。

1)すぐに良く見えますか

手術当日から、良く見えるようになる人もいれば、1週間以上かけて徐々に回復していく方もいます。視力の回復は、目の状態によって大きく異なります。角膜や網膜の状態などさまざまな要因で回復の速さは異なってきます。

眼内レンズ

水晶体を眼内レンズに置き換える

2)眼内レンズの選び方

手術で挿入した眼内レンズは、若い人の水晶体のように厚くなったり薄くなったりして、ピントを調節する力がありません。そのため見る物の距離に合わせて、メガネを上手に使う必要があります。
手術を受ける前に、術後の見え方について医師とよく話し合うことが大切です。

●家の外での生活が中心の方には

メガネをかけずに遠くが見えるようにしたい人には、ピントを「遠く-5m」に合わせた眼内レンズが適しています。この場合、手元を見るときに近用メガネ(老眼鏡)が必要です。

●室内での生活が中心の方には

メガネをかけずに手元が見えるようにしたい人には、ピントを「近く-30cm」に合わせた眼内レンズが適しています。この場合は、遠くを見るとき(車の運転など)に、遠用メガネが必要です。

●なるべくメガネをかけたくない方には

モノビジョン法があります。これは、片眼は遠くが、もう片眼は近くが見えるようにする方法です。

*以上は、単焦点眼内レンズ(保険診療)を用いる方法ですが、遠方と近方両方が見やすくなるように焦点が2か所に設計された、多焦点眼内レンズ(先進医療)もあります。
モノビジョン法や多焦点眼内レンズは、誰にでも合うわけではありません。主治医によく相談してください。

自分の希望に合った眼内レンズが選べます。眼内レンズの種類は大きく2つあります。1つが単焦点眼内レンズで、これは遠くにピントを合わせたレンズか、近くにピントを合わせたレンズです。片目ずつピントの合う位置を変えることもできます。もう1つが多焦点眼内レンズで、これはピントが遠くと近くの2か所にある眼内レンズです。

1)まぶしいと感じます(羞明)

手術の翌日から、少しまぶしすぎるように感じることもあります。手術前は濁っていた水晶体を通して見ていたのが、手術で急に濁りがとれて大量の光が入るために起こることの多い自覚症状です。
手術の直後はかなりまぶしく感じるものの、時間が経過するとあまり感じなくなってきます。まぶしさが続くようであれば、サングラスをかけることをお勧めします。

2)青みを帯びて見えます(青視症)

以前よりも物が少し青みを帯びて見えます。手術前は、水晶体が加齢によって黄色味を帯びており、青色をはじめとする短波長の光が目に入りにくくなっていました。眼内レンズはその短波長の光を通します。したがって、手術前よりも青色の光が目に入りやすくなっているのです。
手術後はこのように、色の感覚が少し変化することがあります。両眼手術すると気にならないのですが、片眼だと気になります。時間が経つと気にならなくなる人がほとんどですが、気になる人は薄い茶系のサングラスを使うとよいでしょう。

3)黒いものが飛んでいるのに気がつきます(飛蚊症)

手術後、視野に黒い虫のようなものが飛んでいることに気がついたり、以前よりも黒いものが増えているのに気づくことがあります。前は霞んで見えていたので気にならなかった「飛蚊症」が、手術後にかえって気になるのです。
これは、水晶体の濁りをきれいに除去しても硝子体の部分(2.白内障の手術はなぜ必要ですか?参照)は以前のままのところに、手術後、目の中に入る光の量が増えて、目の中の硝子体にある混濁が鮮明に網膜上に影として写しだされるようになったためです。ほとんどの場合、病気ではなく生理的な混濁が原因です。
時間が経つにつれてあまり感じなくなりますが、網膜剥離などの前兆として現れることもありますので、眼底検査を受けるのがよいと思います。

4)視野の周囲に幕があるように感じることがあります(グレア)

眼内に入る光の方向によって、光が眼内レンズのふちで反射して、視野の周辺に三日月形の雲のような像を生じることがあります。見え方や視力に悪影響を及ぼすことはありません。
最初は気になるかもしれませんが、しばらくするとあまり気にならなくなる方がほとんどです。

1)洗顔・洗髪・入浴はどのようにすればよいですか?

手術後の感染症を防ぐため、術後1週間の洗顔・洗髪は控えてください。かたく絞ったタオルで拭くのは当日から構いません。1週間経過し、洗顔の許可がでたら、眼球を強く圧迫しないよう注意して行ってください。
洗髪は、洗顔と同じく術後1週間から可能ですが、最初はシャンプーなどが目に入らないようにしましょう。
顔に水がかからないようにシャワーを浴びるのは差し支えありませんが、浴槽につかるのは、1週間は避けたほうがよいでしょう。

2)お化粧・ひげそりはいつからできますか?

お化粧は、手術後1週間は、控えめにしてください。アイメイクは1か月程度避けてください。毛染め・パーマは、約1か月後からできます。電気カミソリは、手術の翌日からOKです。

3)飲酒・タバコはかまいませんか?

食事についての制限はありませんが、お酒は炎症を悪化させる恐れがあるため、手術後の約1週間は控えてください。タバコの煙は目に刺激となりますので、お酒と同様に1週間は控えることが望ましいです。

仕事の内容にもよりますが、デスクワークなど室内の仕事なら、適度な休憩を挟めば、手術の翌日から可能です。極端に重いものを持つ重労働については、最低1週間は控えた方が無難です。

日常の家事や散歩程度の運動は、手術の翌日より可能です。ただし、汗には皮膚の細菌が含まれているため、汗をかくような運動は、術後1週間は、控えてください。

ゴルフなどの通常のスポーツは、1か月後より可能ですが、水泳は汚染されたプールの水が直接に触れる可能性があるため、1か月は控えた方が無難です。水泳時には必ずゴーグルを使用してください。

砂ぼこりなどで目が汚れる可能性がある競技や、目を打撲する可能性がある競技は、1か月は控えてください。

手術後の仕事や運動は、主治医に相談してから行いましょう。

手術前に使用していたメガネは、多くの方は合わなくなります。各自異なりますが、裸眼視力が安定するのは、術後1~2か月後です。その間にメガネの度数も少し変化するため、手術直後に良く見えたメガネの度数では、2~3か月後には合わなくなってしまい、あまり良く見えなくなることがあります。そのため、1~2か月はメガネを作るのを待った方が無難です。

メガネなしでは日常生活・社会生活に困る場合、作り変えることを納得した上で、術後早めに適切なメガネを一旦作成し、2~3か月後に微調整した新しい度数のメガネを作り直していただくとよいでしょう。

近くへの短期間の旅行であれば術後1週間より可能ですが、遠距離旅行(特に海外旅行)などは、1か月ぐらいの間は避けたほうが無難でしょう。温泉や大衆浴場の利用も1か月は避けましょう。

予定がある場合は、医師と相談して、手術日の調整をしてもらうようにするとよいでしょう。

運転は、見え方が安定してくる、術後1週間程度で可能な場合がほとんどです。それまではあまり無理はせずに、見え方が安定して、目の状態に慣れてから始めましょう。

1)細菌性眼内炎:術後早期の合併症として細菌性眼内炎に注意が必要です。非常に稀ですが(頻度は2,000~5,000人に1人)、最も重篤な合併症です

手術の直後は何も問題なく、鮮明に見えるようになっていたのに、術後3~7日頃に急に見にくくなり、強い痛みやひどい充血が生じた場合には、この合併症の可能性があります。
放置すると失明する危険があります。早期に治療を開始する必要がありますので、すぐに手術を受けた医療機関を受診してください。
感染予防として術後ゴーグルの使用を勧めています。ゴーグルは柔らかく、耳にかける部分をゴムバンドに交換ができるので、就寝中の目の保護にも役立ちます。術後1週間程度使用するとよいでしょう。

術後ゴーグル

2)後発白内障:術後しばらくしてから、また白内障になったように感じます

白内障の手術後、数か月~数年して、「まぶしくなる」「目が霞む」といった症状があり、また白内障になったのではないかと感じることがあります。これは、「後発白内障」と言われるもので、手術の時に残しておいた水晶体のふくろ(後嚢)が濁ってくるために起こります。
後発白内障はレーザーを使って濁りを取ることができます。視力はすぐに回復します。入院の必要もありません。

後発白内障

レーザー治療前とレーザー治療後の写真

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絵 清水 理江

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