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中高年からのロービジョンケア

川崎医療福祉大学感覚矯正学科長 前日本ロービジョン学会理事長 田淵 昭雄

ロービジョンケアとは、眼科領域では、視覚(視力、視野、色覚、明暗、固視、眼球運動、両眼単一視・立体視など)の機能が障害されて、日常生活に支障をきたしている場合に、文字を拡大するとか、コントラストを高めるとか、遮光眼鏡をかけて眩しさを軽減するとか、プリズム眼鏡で視野欠損を補うとかなどで、少しでもその支障を軽くするように、個々に応じた支援を行うことです。

また、歩行や移動の支援、日常生活訓練、就業継続または新たな職業訓練、障害年金相談や身体障害者手帳の申請など社会福祉領域での支援、就学や心理的葛藤に対する支援なども、大切なロービジョンケアです。

中高年からの年齢に応じた視覚機能の低下や、高年齢故に発症しやすい眼疾患による機能低下をカバーするのも、ロービジョンケアです。

このような訴えでは「ひょっとして年のせいで眼が悪くなったのではないか」と、心配している人が多くいます。実際に、メガネの度が合っていないことが多くあります。そこでまず、そのメガネをいつ作ったかを確かめますが、数年前に作ったものでは、眼自体の経年変化で屈折度が変り、乱視度も変っていることがあります。この変化が原因であるなら、正しい屈折矯正をするとよく見えるはずです。

逆にメガネを新調した後、わずかの間にまた見えにくくなり、その度にメガネを買い替えて、数個のメガネを持っている人がいます。一番の原因は水晶体の変化(白内障の進行)による屈折度の変化です。これはあきらめてもらうしかなく、白内障手術をすることで、ほとんどの人が安定した視力になります。

しかし、種々の眼疾患、例えば眼球が拡大しすぎた強度近視、白内障、網脈絡膜疾患、黄斑部変性(特に加齢黄斑変性)、緑内障や視神経疾患などの既往があるときには、メガネでは矯正しても視力は良くなりません。それでも魔法のメガネを信じている患者さんは少なくなく、詳しく説明してもなかなか納得してもらえないのが問題です。

以上をまとめますと、(1)現在のメガネが合っていない、(2)白内障が進行している、(3)眼内の病気、特に加齢による網膜疾患や緑内障が潜んでいることがある、となります。

表 1 は、60 歳以上の視覚障害(良い方の視力が 0.5 未満)の原因疾患とその有病率を示します。

(日本の眼科 80(6)付録,日本眼科医会研究班報告2006-2008 より抜粋)

表1

疾患 年齢 有病率 有病者数
加齢黄斑変性 60 ─ 69 0.24 % 39,772
70 ─ 79 0.58 % 72,273
80 ─     0.78 % 55,454
白内障 60 ─ 69 0.19 % 30,421
70 ─ 79 0.21 % 26,769
80 ─     0.36 % 25,679
糖尿病網膜症 60 ─ 69 0.41 % 67,517
70 ─ 79 0.49 % 60,766
80 ─     0.52 % 37,134
緑内障 60 ─ 69 0.63 % 103,561
70 ─ 79 0.93 % 116,544
80 ─     1.30 % 92,754
屈折異常
(病的近視)
60 ─ 69 0.32 % 52,846
70 ─ 79 0.42 % 52,734
80 ─     0.51 % 63,410
日本の 2007 年の推定人口(人): 127,770,000
推計人口 60 ─ 69   16,311,000
70 ─ 79   12,487,000
80 ─       7,139,000

(厚生労働省 2007 年 9 月発表)

答えはイエスです。眼の病気の種類によって視力の残り方が違いますので、見え方も異なり、生活上の支障(不自由さ)も異なります。視力の回復が望めない以上、残った視力を利用するしかありません。

一般的に視力が 0.01 以上あれば眼を使った生活ができますし、0.01 以下の時でも、眼を使わない新たな生活様式で生活を行うことができます。

視覚障害者(身体障害者手帳取得相当)1,412 人から調査した「不自由を感じる事柄」では、移動が31.8 %、情報が 17.8 %、家事が 16.0 %、食事が 13.8 %、仕事が 8.8 %、住宅が 7.5 %、その他 4.8 %でした。これらの問題の解決法を以下に記します。

(1)移動:
安全な移動が最重要なので、本人及び世話する方に、ヒューマンガイドテクニックを身につけていただきたいです。白杖(はくじょう)を使うと歩行が容易になりますが、白杖に抵抗がある場合は介助者を付けるのが最も確実です。また、日常よく訪れる場所(スーパー、駅、会社、その他の施設)への最も安全な移動法を調べて、それを守ることが大切です。
公共機関では連絡をしておくと介助してくれます。
(2)情報:
文字による情報(新聞、雑誌や書物)の獲得が困難なために、次第にこれらを倦厭する方が多いです。TV やラジオからの情報、あるいは家族や友人から情報を得ることになりますが、十分とは思われません。是非とも、インターネットを使いこなせるように希望します。また、文字の拡大で、ほとんどの読み物が読めるようになる方が多いです。(6 ~ 7 ページ参照)
(3)家事及び食事:
これらの不自由さの解決には、やはり生活訓練を行ってくれる専門家の指導を受けることが一番です。
(4)仕事:
就労の継続や復職を考える NPO 法人「タートル」に相談するのが得策です。職業訓練を行う施設や、盲学校の職業教育などもあります。ハローワークも相談に乗ってくれます。
(5)住宅:
家の中では移動範囲も限られ、動線(移動する時の経路)も決まっていますので、段差をなくす、整理整頓する、動線上に物を置かない、物の置き場所を変えない、ドアを半開きにしないなどで、安全が確保できます。

(1)文字や視対象を拡大する補助具:

最もよく使われます。

・拡大鏡-
弱視眼鏡(図1)、手持ち型拡大鏡、卓上型拡大鏡(図2)
・単眼鏡 -
双眼鏡と同じ理屈で良い方の眼で見ます。手持ち式(図3)、眼鏡式(図1)
・拡大読書機-
モニター部と読み取り装置(カメラ部)からなり、カメラで拡大された文字や図などがモニター画面に映しだされます。拡大鏡よりも倍率を上げることができ、視力が 0.01 程度でも利用できます。白黒反転機能が有効な人も多くいます。据置式拡大読書器(卓上式拡大読書器もあります)(図4)
・電子タブレット-
iPad(図5)も有用です。

(2)コントラストを上げる補助具:

コントラストシート(図6)、拡大読書器や遮光眼鏡も有効です。

(3)眩しさを減じる補助具:

遮光眼鏡が最適です。多くの眼疾患は光に対して眩しさ(羞明)を感じ、視力低下の原因にもなっています。(図7)

(4)視野異常(半盲など)をカバーする補助具:

凹レンズが便利です(図8)。見えない部分をプリズムで見える視野内に移動させる方法もあります(膜プリズム)。

図1 :眼鏡式拡大鏡(弱視眼鏡)─ 単眼鏡、複眼鏡
図2 :手持ち型拡大鏡(ルーペ)
図2 :卓上型ライト付拡大鏡(ルーペ)
図3 :手持ち式単眼鏡
図4 :据置式拡大読書器
図5 : iPad
図6 :コントラストシート

図7 :遮光眼鏡

クリップオンタイプ遮光眼鏡,クリップオンタイプ,オーバーグラス,偏光眼鏡の写真

通常は短波長領域(青いろ)が眩しさの原因になっていますので、この領域の光をカットする遮光眼鏡が有用です。個人差がありますので、戸外で実際に個人個人に合った遮光眼鏡を作って下さい。

図8 :凹レンズによる視野の拡大

凹レンズ(-10D~-16D)を通してみると、像は小さくなりますが、視野が広く見えますので、前方に何があるかを確認できます。

日常生活動作のことを、しばしばADL(Activity ofDaily Living)と言います。

(1)基礎項目:
部屋の状況を能率的に的確に把握するための環境認知及び室内移動。
(2)身辺処理:
食事、トイレ、衣服の着脱、入浴、衛生、身だしなみ、化粧、貨幣管理、電話利用など。
(3)家事動作:
清掃、洗濯、裁縫、調理、外出・買い物など。これらの動作を行うために多くの補助具があります。

また、多くの便利用品があり、視覚障害者のみでなく、中高年、特に60歳以上のお年寄りにも役立ちます。

1.福祉制度で定められている日常生活用具

・音声時計-
時刻を音声で伝えます。(図10の下段)
・電磁調理器-
火を使わないので火事を防ぎます。
・盲人用体重計及び体温計-
音声で知らせてくれます。
・歩行時間延長信号機用小型送信機-
横断歩道時間を長くすることができます。

2.一般に市販されている便利用品(グッズ)

書字用の罫プレートとか、音声計量器など音声で知らせる便利グッズは多くあります。あらゆる日常生活場面で便利にかつ安全に使用できる用品は、新聞や通信販売でも紹介されています。

・日常生活用品(図9):
電磁調理器、音声式タイムスイッチ、音声式ヘルスメータ
・便利グッズ(図10):
(書字用)罫プレート、触時計、音声式デジタル時計と計算機、色素変性症用超強力ライト
・配膳の工夫(図11):
クロックポジションによる配膳、ランチョンマット。黒色まな板は配膳でないがランチョンマットなどと同様に安全に識別できます。

図9 :日常生活用品

電磁調理器,音声式タイムスイッチ,音声式ヘルスメータの写真

図10 :便利用品(グッズ)

●罫プレート:はがきや手紙用紙を挟んで文字を真直ぐに書く。読書にも利用できる。

触時計、音声時計,音声式デジタル時計と計算機,色素変性症用超強力ライトの写真

●音声(言葉)で表現されるので確認しやすい。

図11 :配膳の工夫

コントラストを付けて識別しやすく工夫する。配膳はクロックポジションで行う。


黒色まな板


コーヒーカップセットが見やすい濃紺ランチョンマット

小林章・松崎純子, 2000

家の中では、安全かつリラックスして生活できることが最も大切です。視環境を改善し、音声や拡大文字で表示される便利グッズを利用しましょう。可能であれば、インストラクターの介在する基本的生活活動の訓練あるいは実体験としての訓練による指導を受けることを推奨します。

晴眼者でも僅かな段差で転倒して骨盤骨折し、手術後もますます身体が動かなくなることがあります。下記のような点に留意してください。

  • 足元に障害物を置かない
  • 頭(目線)の位置に物を置かない
  • 家具や生活用品が整理整頓されている(いつも定位置にある)
  • コントラストの高い環境にする、照明は明るく
  • 段差や落差をなくす
  • 階段の縁が見にくい場合は、コントラストをつけるために黄色のテープをはる。手すりを付けて安全に昇降できるようにする
  • 食卓では濃い色のランチョンマットを使う

家庭内部の整理整頓

・顔や頭の高さに物を置かない。

・玄関の足元に障害物を置かない。

・居間では動線に、手掛かりになる定位置の物を置く。
・ステップの端に黄色いテープを貼ると踏み外しとか、段飛ばしで転倒することなどを回避できます。また、手すりがあると安全に昇降できます。

歩行では「視力が 0.1 以上あれば動作にほとんど不便はなく、0.05 の視力があれば 2 ~ 3 メートル以内の物なら、かなりの物が判別でき、0.01 程度だと慣れた道なら、歩車道の区別や大きな標識の識別が可能」(市川宏ほか、1984)と言われています。

したがって、かなりの視力障害でも歩行自体は問題ありませんが、周囲環境の把握(特に視野障害のある方)が悪く、例えば、歩道上の障害物(自転車など)、僅かな段差、建物からの突起物などに気がつかないために、大怪我をすることに留意してください。(裏表紙に視力障害及び視野障害の程度による見え方を示しています)

外出時の基本的な注意は、予め行き先の最も安全な道程を考えてから行動する習慣をつけることです。もし、一人での外出が危険であると判断する場合は、ヒューマンガイドテクニック(ガイドヘルプ)を身につけた方(家族やボランティア)に、手引きしてもらいます。白杖でなくても杖を常用し、歩行の助けをする習慣もいいでしょう。道路の凸凹や段差も判断しやすくなります。

夜間は、道路の水溜りの判断を確実にすること、携帯ライトを常用することも大切です。身体障害者手帳を持っている方は白杖の支給がありますので、可能な限りこれを使うのが得策です。(使用に当たっては専門的な訓練を受ける必要があります。「8.白杖(はくじょう)を使用するにはどうしたらいいですか」参照)

ヒューマンガイドテクニック(ガイドヘルプ)

白杖には折り畳み式もあります。2人分の幅で歩く、階段では一段後ろを歩く、狭いところは一歩真後ろを歩く、等があります。

視覚障害者(目が見えない者)が「白杖を携えること」は、本当は、道路法で法的に定められており、逆に「視覚障害者が白杖を携えて歩行しているときは、一時停止、徐行、通行を又は歩行を妨げないよう」とされています。
このように白杖は身体障害者手帳に該当する視力障害者(視野障害者も)の携帯義務になっており、盲人安全杖として身体障害者福祉法の補装具に認定されています。眼科で身体障害者手帳の診断書を書いてもらい、福祉課(更生相談所)に申請すると、希望する種類の白杖が支給されます。

白杖には、(1)周囲の状況や路面の変化などの情報を入手する(探り針として)、(2)安全を確保する(緩衝器、身体の支えとして、サポートケーン)、(3)視覚障害者であることを知らせる(シンボルとして)目的があります。この 3 つの作用を持つ白杖が通常の白杖として考えられ、ロングケーンと呼ばれています。
ロングケーンは、折りたためるコンパクトなものと直杖の形とか、アルミ製やカーボン製の材質のものがあります。3のシンボルとしてだけのシンボルケーン(ID ケーン)は短く細い携帯用のものです。

白杖の使用に当たっては、歩行訓練士の指導を受けるのが正式です。白杖の長さ、白杖の持ち方、白杖の振り方や先端(石突き)の使い方など、多くのことをマスターしてから、実際に使用します。よく杖代わりにして、からだを支えるだけの使い方をしている方を見かけますが、正しい使い方を教えてもらうのがいいでしょう。
歩行訓練士の所在が不明のことが多いので、とりあえずは盲学校なり、視覚障害者の福祉関連施設に問い合わせると、歩行訓練指導を受けることができます。

視覚障害者が何を相談したいかによってその窓口が異なります。医学的なことは、主治医に相談して下さい。日本眼科学会、日本眼科医会、日本ロービジョン学会のホームページを検索するのも、早道です。

また、各県にある盲学校或いは盲人協会等に連絡するのもいいでしょう。表2 は相談したい内容によって、窓口がどこにあるかを示したものです。

表2 視覚に障害のある人を対象とした福祉制度

項目 窓口など
1 手帳の取得と更生施設 1)身体障害者(児)手帳の交付 市区町村役場
2)更生相談 身体障害者更生相談所
2 経済的支援 1
(医療関係)
1)身体障害者(児)医療助成 市区町村役場
2)自立支援医療 育成医療 保健所
更生医療 市区町村役場
3)特定疾患の医療費助成 保健所
3 経済的支援 2
(所得保障)
1)国民年金(障害基礎年金) 市区町村役場
2)厚生年金(障害年金) 社会保険事務所
3)共済年金(障害共済年金) 各共済組合
4)労働者災害補償保険 労働基準監督署
5)児童・特別児童扶養手当 市区町村役場
4 経済的支援 3
(税の減免)
1)所得税・住民税など 税務署,勤務先
(1)所得税の控除(障害者控除,特別障害者控除,同居特別障害者控除)
(2)住民税の非課税控除(障害者控除,特別障害者控除,同居特別障害者扶養控除)
2)相続・贈与税など 税務署
3)事業税 都道府県税事務所
4)自動車税・自動車取得税 都道府県税事務所
5 経済的支援 4
(郵便料金など)
1)視覚障害者用郵便物の無料制度 郵便局
2)放送受信料の減免 市区町村役場
3)日本電信電話株式会社の番号案内料金の免除 最寄の NTT 支店
6 福祉用具の支給と貸与 1)補装具費の給付 市区町村役場
2)日常生活用具の給付・貸与 市区町村役場
3)視覚障害者用ワードプロセッサー共同利用制度 点字図書館,福祉センター
4)視覚障害者用具の販売 日点・日盲連
7 生活の支援 1)障害者自立支援法による事業,居宅介護,生活サポート事業 市区町村役場
2)介護保険の事業
3)身体障害者の緊急一時保護
4)盲老人ホーム
5)盲導犬の貸与
6)地域生活支援事業
7)視覚障害者社会参加事業
盲婦人家庭生活訓練,盲青年社会生活教室開催,中途失明者緊急生活訓練,点字・ワープロ講習会
8 施設・学校の利用 1)視覚障害児施設 児童相談所
2)視覚障害に配慮した教育 教育委員会
特別支援学校(視覚障害),弱視特別支援学級,弱視通級指導教室,通常の学級
3)視覚障害リハビリテーション施設 施設・市区町村役場
9 職業訓練・就労支援 1)就労支援(身障者雇用主への援助) 心身障害者雇用促進協会(※)
2)職業訓練 1(身体障害者職業訓練校) ハローワーク
3)職業訓練 2(障害者職業センター) ハローワーク
4)職業訓練 3(職場適応訓練) ハローワーク
5)職業教育・訓練 1(理療教育訓練) 市区町村役場
6)職業教育・訓練 2(学校教育法など) 各特別支援学校
10 住宅の支援 1)公営住宅への優先入居 市区町村役場
11 お出かけ支援 1)電車・ JR 運賃の割引 乗車券発売所
2)国内航空運賃の割引 搭乗券発売所
3)地方自治体など独自に定めているもの 市区町村役場
4)有料道路の割引(視覚障害者の場合) 市区町村役場

(菊入 昭 2011)

(※) 心身障害者雇用促進協会は既に解散。現在は独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構が対応している。

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絵 清水 理江

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