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黒いものが飛ぶ 飛蚊症

日本大学助教授 湯沢美都子

ある日突然に、あるいは、いつの間にか目の前に蚊やゴミのような物が飛んで見えたり、雲のようなものが浮いて見えたり、墨を流したように見えたことがありませんか。これが 飛蚊症 ( ひぶんしょう ) です。飛蚊症は、あらゆる年齢層に起こりますが、高齢者ほど、特に近視の人ほど多く見られ、多くの場合心配ありません。

しかし、飛蚊症は、自覚症状が少なく、視力が低下したり痛んだりしないことが多いので、たいしたことはないと、眼科医に受診せずに放っておいたために、網膜剥離や眼底出血などの重大な目の病気を見逃してしまい、失明することがあります。飛蚊症になったら、ぜひ、眼科医の診察を受けることをおすすめします。

目の前に「黒いものがとぶ」ことを眼科では飛蚊症といいます。蚊が飛んでいるように見えるという意味ですが、実際にはこの他に水玉、ハエ、黒いスス、糸くず、お玉じゃくし、輪などが見えることもあります。

また黒いものから透明なものまで色もさまざまで、数も1個から数個、時に多数のこともあります。これらのものは目を動かすと、ふわっといった感じで目といっしょに動いて見えます。

飛蚊症は、眼球の硝子体(しょうしたい)に濁りができたためにおこる症状です。そこでまず硝子体のことをお話ししましょう。

硝子体は、水晶体(眼のレンズ)の後方から網膜に達するまでの眼球の大部分を占めています。その中には生卵の白身のような透明でドロッとした物質がつまっています。

目の一番前にある透明な角膜、その後方の前房、水晶体を通ってきた光は硝子体を通過して網膜に達して物が見えるわけです。

眼球の断面図

本来透明なはずの硝子体に、なんらかの原因で濁りができますと、そのかげが網膜にうつり、目の前に見えるようになります。これが飛蚊症です。

しかし、濁りは実際には目の中にあるのですから、目を動かすといっしょに動きます。また、網膜に近い部位にある濁りほど、よりはっきり見えますし、濁りの大きさや量によって見えるものの形や大きさが異なるわけです。

飛蚊症をおこす硝子体の濁りは、生まれつきのものと生後できたものに分けられます。

生後できるものには、年をとることによって生じた硝子体の変化によるものと、硝子体の周囲の出血や炎症性物質が硝子体内に入ってきたもの、遺伝性の硝子体の病気、全身の病気によっておこるものとがあります。

飛蚊症の原因

生まれつきのもの 出生前の組織の遺残による
生後出現するもの
硝子体の年齢による変化にもとづくもの
  • 離水
  • 後部硝子体剥離・・・多い
硝子体の年齢による変化以外の原因によるもの
  • 硝子体出血
  • ぶとう膜炎
  • 網膜硝子体ジストロフィ
  • その他

胎児のうちは、硝子体の中に血管が走っています。この血管はふつう出産までにはなくなってしまいます。ところが時にその血管の一部、あるいは血管周囲の組織の一部が生後も硝子体の中に濁りとして残ることがあります。

このような生まれつきの濁りは、視力さえ良ければ特に急いで治す必要もありませんし、時々検査をして異常がなければ放置していても心配のないものです。

40代になると、透明なドロッとした玉子の白身のような硝子体は組成が変化し、硝子体の内に液体がたまった小部屋のようなものができてきます。これを離水(りすい)といいます。

さらに年をとりますと、液体のたまった小部屋はどんどん大きくなり、一方硝子体そのものは収縮してしまいます。この硝子体の変化によって生じた硝子体の濁りが飛蚊症の原因になることがあります。

空隙(中に液体がたまっている)

7-1. 年をとることによっておこる硝子体の変化(1)」で述べた「離水」によってできた液体のたまった小部屋は、やがてその後側の壁が破れて液体は流れ出してしまいます。その結果前方に収縮した硝子体、その後方に液体に変わった硝子体がたまります。

生玉子の白身のような状態の硝子体は、時には網膜と軽く癒着していますが、硝子体の収縮と前方への移動のためにこの癒着もはがれます。これを後部硝子体剥離(こうぶしょうしたいはくり)といいます。

この後部硝子体剥離が突然の飛蚊症の原因として最も多いものです。

後部硝子体剥離のいろいろ

後部硝子体剥離は60代前半に好発します。ただし中等度以上の近視の場合には、後部硝子体剥離は10年位早くおこります。

また、白内障の手術をうけた場合には、1年以内に出現することもあります。

後部硝子体剥離は、硝子体の年齢による変化としておこるわけですが、しかしこれが引き金となって重大な病気がおこることがあります。 その中で最も注意を要するのは網膜裂孔という病気で、後部硝子体剥離の6~19%におこります。

また頻度は少ないのですが、後部硝子体剥離にさいし網膜血管がひっぱられて破れ出血し、それが硝子体の中に流れ出て硝子体出血になることがありますし、網膜の一部に膜がはったりすることもあります。

先に、後部硝子体剥離がおこると、硝子体と網膜の癒着がはがれると書きましたが、硝子体の全部が網膜からはがれるわけではなく、ことに周辺部ではくっついている部分とくっついていない部分ができてしまいます。このためこの癒着部の網膜がひっぱられてその結果、網膜に孔があいてしまうことがあります。これを網膜裂孔(もうまくれっこう)といいます。

網膜裂孔の機序説明図

網膜裂孔は放置しますと、裂孔から液体状になった硝子体が網膜の後に入り込んで、網膜剥離というこわい病気になります。

ぶどう膜は 虹彩(こうさい)毛様体(もうようたい)脈絡膜(みゃくらくまく)という3つの組織の総称で、これらに炎症がおこるとぶどう膜炎といいます。このうち毛様体と脈絡膜の炎症がおこりますと炎症性物質や白血球が硝子体中におしだされ、硝子体の濁りをおこします。

この病気のおもな症状は目のかすみ、視力低下などですが、飛蚊症で病気にはじめて気づく場合もあります。またぶどう膜炎がながびき重症になると、硝子体にも変化がおこり膜様の混濁ができ、黒い雲のような飛蚊症を自覚するようになります。

網膜の血管が破れ出血が硝子体中におよぶと、硝子体出血といいます。硝子体出血は、少量であれば、硝子体の濁りとして存在するため飛蚊症の原因になります。

しかし、網膜の血管の病気によっておこる硝子体出血は通常多量であり、光線は出血にさえぎられて網膜に達しなくなり、ひどく視力が低下します。つまり可能性はあるのですが、硝子体出血が飛蚊症の原因になる場合は意外にまれです。

遺伝によっておこる網膜と硝子体の病気は、網膜硝子体ジストロフィとよばれますが、まれな病気です。

また、全身の病気によっておこる硝子体の濁りとしては、硝子体アミロイドーシスという病気が有名ですが、これはさらにまれです。

一般に後部硝子体剥離の場合の飛蚊症は突然おこり、いつも見え、形はゴミクズ、糸クズ、雲、蚊、ハエなど形がはっきりしています。大きさは大型のものが多く、色の濃いのが特徴です。

また飛蚊症になる前か後に、ピカピカ光るものが見えた場合には、後部硝子体剥離がおこったと考えて絶対まちがいありません。

生まれつきのものや離水に際しておこるものでは、明るい日に白い壁を見て飛蚊症に気づくというふうに発生時期は不明瞭です。

形も水玉のよう、泡か水滴のよう、かえるの卵のようなどとはっきりした形ではなくて、白色ないし不透明の場合が多いようです。

飛蚊症を自覚したら眼科を受診し、精密検査をうけ、放置しておいてよいものかどうかを診てもらうことが大切です。

特に60歳前後に突然飛蚊症を自覚した場合には、なるベく早く眼科医を訪ね、後部硝子体剥離の有無、後部硝子体剥離によって生じる可能性のある病気、特に網膜裂孔の有無をチェックしてもらうことが大切です。

後部硝子体剥離の際に網膜裂孔ができた場合は、放置しておくと網膜剥離になると述ベました。

網膜剥離に対しては、入院、手術しか治療方法がありません。

しかし網膜裂孔だけの時期に発見できますと、光凝固療法といって外来でおこなえる治療方法によって網膜剥離を防ぐことができます。したがって飛蚊症を自覚したら、なるベく早く眼科を受診することが大切です。早いほどよいわけです。

網膜裂孔以外のものでも、早期治療が大切です。例えば、硝子体出血の場合にも、出血の原因を調ベてもらうことによって適切な治療がうけられるでしょう。ぶどう膜炎でも原因の精査と原因に応じた治療が必要です。

何も治療を必要とするような病気のなかった場合には、飛蚊症をあまり気にせず、眼科で時々チェックしてもらい、今まで通りの生活を続ければよいわけです。

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絵 大内 秀

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